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それぞれの想いがまちへと、 まちづくりへとつながる ~対話や交流の場のデザインとマネジメントの重要性~

研究紹介
「それぞれの想いがまちへと、 まちづくりへとつながる ~対話や交流の場のデザインとマネジメントの重要性~」

吉村 輝彦 国際福祉開発学部教授

※所属や肩書は発行当時のものです。

はじめに

 近年、まちづくりを進めていく上で、「地域において、自分たちで意思決定を行い、自分たちで実行し、さらに、自分たちで管理・運営していくことができる仕組みやシステムを作っていくこと」の重要性が認識されています。同時に、行政中心の上意下達に基づく「統治(ガバメント)」から多様な主体の重層的な連携に基づく「共治(ガバナンス)」によるまちづくりへと展開していく中では、まちづくりのマネジメントの仕組みそのものも転換していきます。この文脈の中で、地域まちづくりのあり方が問われています。

地域まちづくりのアクター

 地域まちづくりに関わるアクターは、町内会・自治会といった地縁組織が中心でしたが、価値観の多様化に伴って、こうした地縁組織への加入率の低下、地域団体の役員への担い手不足が課題となる一方で、志縁的なNPOや市民活動団体の活動が活発になる等、地域社会を取り巻く環境も変化しています。 広井良典(※1)や山崎亮(※2)は、コミュニティのカタチについて論じていますが、地域まちづくりの現場を見ていくと、地域に根ざした地縁組織に加えて、特定のテーマに関心を持って、志の縁で集まった志縁組織、さらには、もう少し緩い枠組みの中で、楽しいことをしたい、あるいは、学びたいという縁で集まった楽(学)縁組織が、今後の担い手として考えられます。人々のつながりも、伝統的な地縁に見られる濃密な/緊密な関係から、楽(学)縁のような緩やかな関係まで強弱があり、緩やかな(弱い)つながりの持つ可能性は今後のまちづくりの展開において鍵となります。そして、人々のまちづくりへの関わりや関心のレベルは様々ですが、実際の活動は、少なからずまちづくりにつながっています。これらを踏まえると、地域まちづくりのアクターや組織のカタチのあり方自体も問い直す必要があります。また、地域やコミュニティそのものも柔軟に捉えていく必要があるでしょう。多様な価値観を持った人々(アクター)の存在を前提に、包容力(包摂性)を持った、開かれた柔らかいプラットフォームも今後の地域まちづくりの原動力になっていくでしょう。

対話や交流の場づくりと縁づくり

 こうした中で、地域まちづくりを進めるためには、対話と交流の場を通じて、多様な人々の想いを受け止め、縁を紡ぎながら、何らかのカタチにしていくことが求められるでしょう。ここでは、実践事例として、名古屋市名東区における「めいとうまちづくりフォーラム」や高浜市における「ざっくばらんなカフェ」の取り組みを紹介します。 「めいとうまちづくりフォーラム」は、2009年度に行われた試みであり、名東区でまちづくり活動をしている市民やこれから何かに取り組みたいと思っている市民が、活動の分野や地域を越えて「わいわいがやがや」と自由に意見交換し、「わくわくどきどき」な行動につなげていくための場として位置づけられていました。

ここでは、あらかじめ明確な目標を設定した上で話し合いを行うよりは、対話や交流を通じてアクションが創出されることを期待した場づくりがなされました。すなわち、多様な参加者の自由な発想に基づく「わいわいがやがや」な対話や交流から自ら主体的に実践する多彩な「わくわくどきどき」な活動を生み出し、まちづくりへとつなげていくことを目指しました。実際に、全5回の話し合いを重ねる中で、いくつかの行動計画が生み出されました。

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わいわいがやがや会議

出典

(※1) 広井良典(2009)「コミュニティを問いなおす・つながり・都市・日本社会の未来」ちくま新書
(※2) 山崎亮(2011)「コミュニティデザイン」学芸出版社

 その後、グループごとに活動が行われ、そこからさらに新たな取り組みや関わる人の広がりが生まれています。例えば、「めいとうオトナ家族カイギ」や「ゴミコレ」の取り組みがあります。2012年度には、「めいとうかえるプロジェクト」が名古屋都市センターの活動助成を受けて活動を進めます。また、フォローアップ的な「わいわいがやがや会議リターンズ」(2011年3月4日)や「わいわいがやがや会議2012」(2012年3月12日)も開催されています。 一方で、本学高浜市まちづくり研究センターが、2011年7月から、実施している「ざっくばらんなカフェ」は、年齢や職業等立場の垣根を越えてテーブルを囲み、"ざっくばらんに"話すことを楽しむカフェです。いろいろな立場の参加者の交流を通して"新たなつながり"が作られ、さらにそこから"新たな何か"を生み出していければいい、という緩やかな目標を持って行われています。今までに、かわら美術館等と協力して、計8回開催しており、様々なつながりが生まれ、アクションが生まれつつあります。さらに、高浜市いきいき広場の「職員版ざっくばらんなカフェ」の取り組みも始めています。 このように、「わいわいがやがや」や「ざっくばらん」な対話や交流の場づくりや縁づくりを通じて、参加者間の相互作用や関係変容を促し、一方で、緩やかな形でビジョンや想いをシェアしながら、個々の自発的なアクションが喚起され、同時に、自律性が育まれていく可能性があります。こうした柔らかいプラットフォームとそのマネジメントが今後重要になるでしょう。

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ざっくばらんなカフェの風景(高浜市いきいき広場)

今後の地域まちづくりに向けて

 地域まちづくりは、できる人(やりたい人)が、できる時(やりたい時)に、できること(やれること)を行うことでもあり、こうした人々の想いの実現をいかに側面支援できるかが重要です。一方で、人々は多様な関心を持っていますが、必ずしも最初から明確にまちづくりを意識しているわけではありません。しかし、まちづくりとのつながりが見えていないだけで、無意識にいろいろな形でまちづくりにつながっていることが多くあります。 それゆえ、コンヴィヴィアルで創発的な場としての出会いや対話と交流の場づくりが鍵になります。多様な関心を持った関係主体が集い、対話や交流を行う場での出会い、話し合い、分かち合い、学び合いという共有や共感が、共振や共鳴を生み出し、また、多様な縁を紡ぎ、様々な新しい縁(つながり)が形成され(創縁)、そして、新しい活動(コト)が生み出されてくること(共創や創発)が期待されます。同時に、この場を通じて、人々の自発性、主体性や地域当事者性が育まれ、高まり、また、地域まちづくり組織も自立性・自律性やその活動における持続可能性を獲得していくことになるでしょう。こうした積み重ねが地域の社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の向上につながっていきます。 実際に、場を通じて創縁が起こり、多彩なアクションが喚起・誘発されていくためには、単に場づくりの技法(スキル)を自在に操るだけではなく、関係主体のコミュニケーションを大事にした関わりやファシリテーションが求められ、合わせて柔らかなマネジメントのもとで場の状況づくりを行っていくことが不可欠です。さらに、関わり方の心構え(ココロ)や態度が大切です。 このように、今後の地域まちづくりに向けて、場と縁のデザインとマネジメントのあり方が問われています。特に、柔らかいプラットフォームが持つ創縁性や創発性、そして、自発性や自律性の育みに期待しています。行政の支援もこれに沿って進めていく必要があります。プロセスを重視し、対話と交流の場づくりから「始まる」こと、また、場からまちづくりに「つながる(発展する)」こと、そして、場からまちづくりが「生まれる」ことが求められるでしょう。これは、自ずからなる「まちづくり」です。

吉村 輝彦 国際福祉開発学部教授

※2012年8月11日発行 日本福祉大学同窓会会報109号より転載

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