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消費税増税と逆進性の問題

租税体系全体での検討を

 2015年度の当初予算において、消費税は17兆1,120億円の税収が見込まれている。これは、所得税の16兆4,420億円、法人税の10兆9,900億円よりも多い。消費税は、2017年4月から消費税税率が8%から10%に引き上げられる予定であるので、2017年度の消費税税収はさらに増えることになりそうだ。消費税は、わが国の財政を支える基幹税目となっているのである。

 消費税は、所得税や法人税のように所得や利潤を課税ベースとした租税と比べて、景気の変動に影響を受けにくく、税収入が安定しているという特徴がある。現在、わが国の財政は、国債に依存している状況である。そのため、政府からすれば安定した税収入を得ることができる消費税は、望ましい税であると言えよう。ところが、消費税には、税負担率(所得に対する消費税額の比率)が、高所得者よりも低所得者の方が高くなる逆進性の問題がある。

 逆進性の緩和のために、政府が導入を定めた軽減税率は、課税対象となる商品やサービスの取引の一部について、標準税率よりも低い税率を適用して課税する制度である。政府は、軽減税率の対象となる品目を食料品全般(ただし酒類は除く)とすることで低所得者層に配慮し、逆進性の緩和を行おうとしている。

 しかし、軽減税率の恩恵は、低所得者層だけではなく、高所所得者に及ぶことから逆進性の緩和効果は限定的になるという指摘がある。また、食料品に軽減税率を適用したとしても、食料品の価格が上がってしまい、軽減税率の効果が薄れてしまう可能性もある。食料品を生産する過程では、軽減税率が適用されない品目が中間投入物として投入され、その分の費用が増える。そのため、企業努力による費用吸収が行われない限り、食料品の価格が上昇してしまうのだ。

 消費税増税の議論では、逆進性の緩和だけに焦点があてられがちだ。そもそも、消費税を増税した背景には、前述したように国債に依存している財政状況において、今後安定した財源を確保することにある。今回の軽減税率導入よって、消費税は約1兆円程度の減収となる見込みである。これでは、増税すること自体に疑問が生じてしまう。

 財政学では、望ましい租税について、公平性、中立性、最小徴税費の3つの租税原則を掲げている。しかし、1つの税目では、全ての原則をすべて満たすことはできない。そこで、1つの税目ではなく、複数の税目でバランスを取りながら、租税原則を満たしていくという考え方が成り立つ。このような考え方を「タックス・ミックス」と言う。

 逆進性の問題について、消費税だけで行うことに拘ることは無い。所得税などの他の税目でバランスをとりながら、消費税の逆進性の緩和を行う方法もあるのだ。さらに、逆進性の緩和には、社会保障給付やその他の公支出で対応する方法もある。消費税増税のような租税政策を行う場合には、タックス・ミックスや他の政策を含めて検討すべきである。

鈴木 健司 経済学部准教授

※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2016年1月20日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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