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家計管理と金融リテラシー

どう活かすか、何を学ぶか

 2000年代後半、信用力の低い利用者向けの住宅ローンを中心とした債務の返済不履行が全米で多発した。同債権を含んで組成された証券化商品が国を超えて取引されていたことで、世界規模の金融危機につながったのは記憶に新しい。商品の不透明性など、投資家の判断を歪ませる問題のみならず、契約内容を理解しないまま借入契約を結んだり、将来の生活設計を過度に楽観視したりと、家計管理能力が疑問視される人々の存在も浮き彫りになった。

 家計管理の意識と行動の改善策として注目されるのが「金融リテラシー」である。金融リテラシーとは、「お金にかかわる、金融や経済に関する知識や判断力」(内閣府政府広報オンライン)を指し、2012年8月末のAPEC財務大臣会合で「個人や家族の福祉を効果的に下支えする」重要な要素との見解が示されている。

 金融リテラシーは、家計管理にどう活かせるか。「金融リテラシーの高い人ほど、退職後の生活設計をしっかりと立てる傾向にある」という調査結果は、日本を含む多数の国で示されている。

 アメリカでは、信用力や所得が低く、住宅ローンなどの債務返済が滞る可能性の高い人々に事前教育を行うことで、リスクの緩和を図るプログラム(INHP)の成果が報告されている。ドイツでは、金融リテラシーの高い人ほど、金融危機で金銭的損失を被る確率が10〜15%ほど低かったと示されている。

 月収や資産が多く、優れた判断力があれば、経済や金融の知識がなくても家計は安泰かもしれないが、同等の資金力・判断力の人で比較しても、金融リテラシーの高い人はより安定した家計管理を行うと指摘する調査結果が複数あるのは興味深い。

 では、何を学べば金融リテラシーが高まるか。金融庁は「最低限身に付けるべき金融リテラシー」として「家計管理(ここでは収支管理を指す)」「生活設計」「金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択」「外部の知見の適切な活用に関する理解」を掲げており、金融経済教育推進会議が「金融リテラシー・マップ」にその細目を詳説している。

 このマップでは、親が子に小遣い管理などの金融教育を施すことを奨励する。しかし、アメリカでは、親が10代の子に最も施したと自覚する内容と、子の理解が一致する家族は希少との調査もある。家庭内での効果的な教育法の提示が求められる。

 また、「最低限」の言葉とは裏腹に、マップには小学生から高齢者まで項目が多岐にわたって示されており、生涯学習の様相を呈する。「岐路亡羊」とならぬよう、個人が時間と費用を投じて学ぶべき知識と、専門的な相談窓口を拡充すべき項目に区分することが、費用に見合う社会的便益の追求にもつながる。それには、区分の根拠となる大規模な統計調査の整備も必要だろう。

遠藤 秀紀 経済学部准教授

※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2016年2月26日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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