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農産品の知的財産保護

真正な産品をどう守るか

 2016年2月2日に「くまもと県産い草」他2件が、特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(通称、地理的表示法)が定める地理的表示産品に登録された。昨年12月に初登録された7件とあわせると、10件が同産品に登録されたことになる。今後、これらの産品の地理的表示(農林水産省によると、地域で育まれた伝統と特性を有する農林水産物食品のうち、品質などの特性が産地と結び付いていて、その結び付きを特定できるような名称と定義される)は、知的財産として保護されることになる。

 同法は、生産業者の利益の増進と需要者の信頼の保護を図ることを目的として15年6月に施行された。これ以前には、地域特産物の銘柄(いわゆる地域ブランド)の保護は、主として商標法によってなされてきた。また05年には地域ブランドの振興を目的として、商標法の枠内で地域団体商標制度が創設されたが、いずれにおいても商標の不正使用に対抗するためには民事上の司法手続きが必要であった。これに対して地理的表示保護制度には行政上の措置による保護が認められているため、従来の制度を補うものとしてこの制度を位置づけることができる。この制度では、登録を受けた生産者団体の構成員及び当該産品を譲り受けた者のみが、登録された産品に地理的表示を付することができ、これ以外の者に対しては原則としてこの表示を付すことが禁止される。違反した場合、農林水産大臣が当該第三者に対し、不正表示の除去又は抹消等の排除命令を行うことができる。他方、登録を受けた団体の構成員が生産基準を遵守していない場合、農林水産大臣は措置命令を行うことができる。措置命令に従わないときは罰則が適用される。

 国際社会における地理的表示保護制度の先進的な地域はヨーロッパである。かつてのヨーロッパでは、ボルドーワインとアルジェリア産ワインをブレンドしたものが「ボルドー産」として販売されるなど、社会的評価の高い産地を偽称するワインが市場に出回っていた。近年、EU諸国は農産品やその加工品の国際競争力を維持することも考慮して、通商交渉の相手国に地理的表示の保護を求めている。日本における制度導入は、こうした国々に対する知的財産保護姿勢の顕示ともみられている。地理的表示保護制度については、対象となる商品に国家間で違いがみられるなど、国際的な制度調和が不十分といった課題がある。とはいえ、この制度が導入されたことで知的財産の保護に対する対策は日本においても一歩進んだといえる。地域ブランドを保護するための備えが増すとともに、農産品の真正性が保証されることで国際市場に売り込む機会が拡大する。産地にとっては、品質や生産基準の維持に対する責任が重くなるものの、商品の差別化を図ることで、地域ブランドが地域経済の活性化に結びつく可能性も高くなる。

加茂 浩靖 経済学部教授

※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2016年3月14日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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