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パラリンピックの意義

日本福祉大学・日本財団パラリンピックサポートセンター共催シンポジウム
「パラリンピックと共生社会」
第1部 基調講演「パラリンピックの意義」

講師:
遠藤 利明 氏(前東京オリンピック・パラリンピック担当大臣)
日時:
2017年5月27日(土)

※所属や肩書は講演当時のものです。

1.スポーツ基本法制定とスポーツ庁設置の経緯

 私は2006年に文部科学副大臣になりましたが、同年2月のトリノオリンピックは大惨敗で終わりました。それを受けて、もう少し国が政治的に支援しなければますます日本のスポーツの力は落ちていく、まずはその裏付けが必要だということで、国は1961年に制定されたスポーツ振興法を50年ぶりに見直して2011年にスポーツ基本法を制定しました。また、ばらばらの省庁でやっていては駄目だということで、一昨年、スポーツ庁を設置しました。

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 加えて、オリンピック・パラリンピックを招致すれば、みんながもっとスポーツに関心を持って協力してくれるのではないかということで、東京オリンピック・パラリンピック招致に走りだしました。2016年大会の招致は失敗しましたが、2013年9月7日に2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決定しました。

2.オリンピック・パラリンピック成功の条件

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックを成功させるには、三つの条件があります。一つは、安心・安全であることです。最近は世界各地でテロが頻発しています。中でも心配されるのがサイバーテロで、ロンドンオリンピックは2億回のサイバー攻撃を受けました。ちなみに、アメリカはサイバーセキュリティに年間数兆円の予算を組んでいますが、日本はまだ1000億円弱です。また、暑さ対策や輸送の問題、宿泊やさまざまな施設、医療体制も整える必要があります。

 二つ目は、メダルを多く獲得することです。やはり、メダリストが出れば出るほど皆さんは関心を持ってくれますし、今度はもっと予算を付けよう、いろいろな施設も造ろうということになるので、スポーツの振興にはメダルが欠かせません。

 三つ目は、レガシー(遺産)を残すことです。2020年のオリンピック・パラリンピックでいい運営をして、いい成績を出すことも大事ですが、それによってどういう次の時代の日本をつくるのか。日本といえば世界最先端の技術です。現在、自動運転の車や、空港で1秒間に300万人を識別できる認証の仕組み、多言語音声翻訳の研究などが行われているところで、水素社会に向けてトヨタなどが二酸化炭素の出ない燃料電池車を造っています。また、オリンピックの開催が決まって以降、外国人観光客が増えているので、日本のよさや伝統文化を世界に発信しようという動きもあります。

 とりわけレガシーとして、障がいを持っている人も高齢者も、みんなが共生できる社会を実現したい。私はこれを今回のオリンピックの最大のレガシーにしたいと、担当大臣として宣言しました。そして、これを確実に推進していくため、障がい者スポーツ・パラリンピック推進議員連盟を組織し、2020年東京大会成功ワーキングチームで検討を重ねています。

 陸上長距離のゴールドメダリストで世界陸上競技連盟の現会長であり、ロンドンオリンピックの組織委員長だったセバスチャン・コーさんからは、「ロンドン大会はパラリンピックを成功させたから成功したのです。日本は同じ都市で2回目の正式なパラリンピックをやる最初の国です。パラリンピックを成功させたら日本の大会は成功です」と言われています。

3.心のバリアフリー

 同時に、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長には、「バリアフリーの施設や設備は日本の方がはるかに多いのです。ロンドンは百数十年前から地下鉄があるので、バリアフリーにはなっていません。しかし、子どものときから、車椅子の人がいたらみんなで一緒に階段で持ち上げたり、押してあげたりということが自然にできるように教育してきました。ロンドン大会成功の理由は施設だけではないのです」と言われて、あらためて国としてもっとそういうところに力を入れなければならないという思いを強くしました。

 新国立競技場の建築に際しては、障がい者への世界最高水準の対応をするということで、通常、オリンピックでは観客席の0.75%、パラリンピックでは1~1.2%の障がい者席を義務づけられていますが、最低でも1.2%にすることにしました。また、バリアフリーのまちづくりに関する委員会や心のバリアフリーに向けた委員会もつくりました。

4.おわりに

 2020年のオリンピック・パラリンピックの成功に欠かせないのは、みんなが関心を持ってくれることです。ロンドンではパラリンピックのチケットが280数万枚売れました。日本ではそれを上回る300万枚のチケットを購入していただいて、皆さんに応援していただきたいと思っています。そしてもう一つ皆さんにお願いしたいのは、ボランティアとしてぜひお手伝いいただきたいということです。

 日本福祉大学で学ぶ皆さんは、将来、福祉関係の資格を取ったり、指導者になったりされるかと思います。その意味でも、ぜひ、2020年東京オリンピック・パラリンピックが日本全体のオリンピック・パラリンピックとして成功するよう、あらためてご協力をお願いします。

前東京オリンピック・パラリンピック担当大臣

遠藤 利明

衆議院議員。1993年衆議院議員初当選。当選7回。東京オリンピック・パラリンピック担当大臣、文部科学副大臣、建設政務次官を歴任。現在は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長代行、自民党2020年オリンピック・パラリンピック東京大会実施本部長。

※この講演録は、学校法人日本福祉大学学園広報室が講演内容をもとに、要約、加筆・訂正のうえ、掲載しています。 このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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