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中国における"生得的資産"

ブラックボックスの源泉

 先日、中国・広州市内の「石牌村」を、その村の出身者Aさんの案内で見学した。「石牌村」は「城中村」の一つである。「城中村」とは、その名が示す通り(中国語で「城」とは都市の意味)、農村に都市化の波が押し寄せるなかで、農地には高層マンションや商業施設などが建設されたが、かつての農民の住居スペース、すなわち「農家」だけが残されてしまった地区を指す。もっとも、Aさんは、現在「石牌村」に住んでいるわけではない。すでに村の近くの高級マンションに移り住んでいる。

 しかし、もともとの「農家」は、引っ越した後もAさんが所有し、現在、農民工に貸し出し、賃料を受け取っている。まさにAさんにとって、古びた「農家」とは生得的資産にほかならない。もちろん、それだけがAさんの生得的資産ではない。農地に建設された商業施設などの賃料も、村民が設立した株式会社から配当金という形で、毎年その分配を受け取っている。さらに、家賃収入や配当金を元手に、マンションをいくつも購入し、それらを貸し出し、家賃収入も懐に落ちてくる。年間、Aさんがどのくらいの不労所得を得ているのかはあやふやにされたが、少なくとも某組織の運転手として得ている収入より多いことは間違いないようだ。たまたま「石牌村」に生まれたゆえに、彼の生活は豊かになったといえよう。

 このような幸運な人びとは、現在の中国にどの程度存在しているのだろうか。実に、興味が尽きない問題だ。ただ、それを正確に知るための統計は見当たらない。もっとも、このような事例は、どこにでも転がってもいる。たとえば、私の知人は、浙江省のある都市で民工の子弟のための学校を経営しているのだが、その借地料として、年間約150万元(日本円でおおよそ3000万円)を、その土地の保有者(「石牌村」と同じくもともとの村の住民によって設立された会社)に支払っている。そして、支払われたお金は一定額をプールしたのち、元村民に分配されるという。

 このような事実に出くわすと、次から次へと建てられるマンションをみて「誰が購入するの?」、高級自動車を乗り回す若者をみて「なんで買えるの?」という疑問が解けていくようでもある。あるいは、商売を始めた人に「開業資金はどうした?」と尋ねると、「親戚や友達から借りた」という返事に違和感を抱くことも少なくなる。さらに、「土地は国家のものではなかったの?」という問いを発すれば、国家と人びとの関係性の再考を迫られるようだ。

 旺盛な消費力、地下金融のカラクリ、国家に抗する生得的ネットワークの存在など、まさに中国のブラックボックスの一端は垣間見え、この生得的資産こそが、その源泉ではないかと思わざるを得ない。そして、このようなことを考えていると、生得的資産に群がる人びとの塊が、中国社会の深層から次から次に浮かび上がり、これまでとは異なる中国が目の前に迫ってくるようでもある。

原田 忠直 経済学部准教授

※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2018年05月29日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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