身近な話題が「ふくし」につながるWebマガジン

ひとり暮らしの増加と今後~どのような社会を構築していくべきか~

文化講演会
「ひとり暮らしの増加と今後~どのような社会を構築していくべきか~」

講師:
藤森 克彦 福祉経営学部(通信教育)教授
日時:
2018年11月17日(土)

※所属や肩書は講演当時のものです。

1.なぜ「単身世帯」を取り上げるのか

 本日は、ひとり暮らしの増加が社会に与える影響とその対策についてお話しします。私は1990年代後半に、シンクタンクの研究員として、ロンドンに4年間滞在したことがあります。初めてのイギリス生活だったのですが、ロンドンの街を歩いてとても不思議なことがありました。それは、地下鉄などで若者のホームレスが多かった点です。日本では新宿などでホームレスの方を見かけましたが、中高年男性が多いという印象をもっていました。しかし、イギリスでは、若者のホームレスの方が多かったのです。当時、両国の若年失業率はあまり大きな差がなかったので、イギリスでなぜ若いホームレスが多いのか、疑問に思っていました。

 しばらくして、イギリス人の同僚から「イギリスで若者のホームレスが多い一因は、成人した子どもが、親と同居しない傾向があるためではないか」と言われました。このため、ドロップアウトしたり、学力や経済力が乏しい若者の一部はホームレスになると言うのです。「なぜ、イギリスでは同居しない傾向があるのか」と尋ねると、「イギリス人は、子どもの独立を重視するので、ある程度の年齢になった子どもが親と同居していることは恥ずかしいという文化があるからだ」と言われました。

 確かに、日本では、子どもが成人したとはいえ、親と同居することは珍しいことではありません。また、その子どもが経済的に困窮すれば、親の実家に戻って、同居して生計を成り立たせることもあります。もちろん、イギリス人の親も支援したりするのでしょうが、日本ほど手厚くないし、同居は日本よりも少ない。逆に、日本では、家族の支え合いが強く、同居もするので、それが若者のホームレスが少ない一因かもしれないと思いました。

藤森2.jpg

その後、イギリスと日本の社会保障制度などを比較しながら、日本は、成人した子どもへの支援に限らず、家族の支え合いを前提にして諸制度が作られていると考えるようになりました。この点、慶應義塾大学の権丈善一先生は、福祉国家を「家族依存型福祉国家」「政府依存型福祉国家」「市場依存型福祉国家」に分類して、3つの円を使ってわかりやすい説明をしています。つまり、介護や保育などの福祉サービスの担い手は、家族、政府、市場の3つが考えられますが、どこが「主たる担い手」になっているのかは国によって違います。介護を例にとると、家族介護を中心とする国もあれば、政府の介護サービスが充実していて、それが主となる国もある。また、主に市場から全額自己負担で介護サービスを購入して対応する国もあります。この中で、日本は「家族依存型福祉国家」と言われています。また、「政府依存型福祉国家」の代表国は北欧諸国、そして「市場依存型福祉国家」の代表国はアメリカなどアングロサクソン諸国だと言われています。

福祉国家の3類型
藤森3.png

(資料)権丈善一(2017)『ちょっと気になる社会保障 増補版』(勁草書房)を基に、一部藤森が加工。

 3つの類型にはそれぞれ特徴があります。アメリカなどの市場依存型福祉国家では、政府の役割は小さいので、税金や社会保険料などの負担は低い水準です。しかし、市場から全額自己負担で福祉サービスを購入しなくてはいけないので、富裕層は購入できますが、低所得者層は購入できないという問題があります。低所得者層は、必要な福祉サービスを受けられないことが生じてしまいます。

 一方、政府依存型福祉国家では、政府の役割が大きいので、税金や社会保険料の負担は重くなります。その一方で、政府が福祉サービスの提供をするので、人々は所得の高低に関係なく平等に福祉サービスを得ることができます。

 家族依存型福祉国家も、政府の役割が小さいので、税金や社会保険料の負担は政府依存型福祉国家よりも低い水準になっています。一方、女性が介護や子育てに対応することが多いので、女性に過重な負担がかかります。

 ここで重要なのは、どのような福祉国家類型であれ、先に示した円の面積――つまり、福祉サービスを必要とする量――は変わらないということです。税や社会保険料が低下すれば、私たちは得をしたような感覚をもちがちですが、当然のことながら、政府の役割は低下することになります。そうすると、政府の役割が低下した分、家族の役割を増やすか、市場からの購入を増やすかという話になります。例えば、介護保険料を減らせば、公的な介護保険サービスの量は低下しますので、親の介護を抱えている人は、その分、家族による介護を増やすか、市場から購入するか、という選択を迫られます。税や社会保険料が低下したからと言って、得しているわけではないのですね。

 ところで、家族依存型福祉国家である日本は、今、岐路に立たされていると思います。なぜなら世帯規模が小さくなり、家族内の支え合いの機能が以前よりも弱くなっているからです。単身世帯(ひとり暮らし)の増加は、その象徴です。もちろん、単身世帯は必ずしも家族のいない人ではなく、別居の家族がいるかもしれません。しかし、少なくとも同居家族がいないので、世帯としての力は弱くなりがちです。家族の力が弱くなる中で、どのようにして介護などの生活上のリスクに対応していけばいいのか。北欧諸国のように政府による福祉サービスを充実させていくのか、あるいは、アメリカのように自己責任を重視して市場から福祉サービスを購入するのか。あるいは、これらのどちらでもない「第三の道」があるのか。以下では、こうした点を、単身世帯(ひとり暮らし)通して考えていきたいと思います。

2.単身世帯の増加の実態

単身世帯の全体的動向―70年からの長期的推移
藤森4.png

(資料)2015年まで:総務省『国勢調査』、2020年以降:国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計』 (2018), 『日本の将来人口推計(中位推計)』(2017)に基づき藤森作成。

 まず、ひとり暮らしの方は、現在どの程度いて、今後どのように増えていくのかを見ていきたいと思います。2015年の国勢調査によると、日本でひとり暮らしの方は約1842万人いて、全人口に占める割合は14.5%になります。1985年のひとり暮らしの人数は789万人でしたので、この30年間で2.3倍になりました。また、1985年の全人口に占めるひとり暮らしの割合は6.5%でしたので、2015年までに約2.2倍の比率になりました。そして、2040年になると、全人口に占めるひとり暮らしの割合は18%に上ると推計されています。

全世帯数に占める世帯類型別割合の推移
藤森5.png

(資料)実績値:総務省『国勢調査』時系列データ。推計値:国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計』(2018)に基づき、藤森作成(©2018みずほ情報総研)。

 今、「ひとり暮らしの方は1842万人」と言いましたが、ひとり暮らしは世帯としてみれば「単身世帯」になりますので、「単身世帯数は1842万世帯」という言い方もできます。そこで次に、全世帯数に占める世帯類型別の割合を見ると、1985年は「単身世帯」の割合が2割、「夫婦と子からなる世帯」は4割でした。それが2015年には、単身世帯の割合が3割強となり、「夫婦と子からなる世帯」の比率よりも大きくなっています。そして、2040年には単身世帯が4割、夫婦と子からなる世帯が2割強となると推計されていて、ちょうど1985年の「単身世帯」と「夫婦と子からなる世帯」の割合が入れ替わる状況になっていくとみられています。

 ところで、「標準世帯」という用語を、聞いたことがありますでしょうか。「標準世帯」とは、「夫婦と子供2人の4人で構成される世帯のうち、有業者が世帯主1人だけの世帯」をいいます。これは、総務省統計局「家計調査」の定義です。まったく同じ概念ではないのですが、先ほどの「夫婦と子からなる世帯」は「標準世帯」に近い世帯類型だと思います。

 また、「標準世帯」に近い概念として「男性稼ぎ主モデル」という用語もあります。これは、「正社員として働く夫と、妻及び子からなる核家族」です。いわば日本的雇用慣行のもとで、夫は正社員として働いて、生活給込みの年功賃金を企業から支給され、雇用も終身雇用制で安定しています。その代わり、正社員として働く夫は、残業、配置転換、転勤などについて企業から強いコントロールを受けます。家庭の方をみると、夫が会社で長時間労働をする一方で、妻は、育児や親の介護などを一手に引き受けます。善かれ悪しかれ、日本では世帯内で男女の役割分担が行われてきました。そして、先ほどの「家族依存型福祉国家」の基盤には、こうした「男性稼ぎ主モデル」があったと考えられます。

 しかし、今や各世帯類型の中で最も多くの割合を占めるのは、単身世帯です。家族依存型福祉国家の基盤となってきた「夫婦と子どもからなる世帯」は大きく減少しています。家族依存型福祉国家の前提が変わってきているのです。

男女別・年齢階層別にみた1985~2015年にかけての単身世帯の増加倍数
2015年(単位:倍)
20代 30代 40代 50代 60代 70代 80歳以上
1985年との比較 男性 1.0 1.7 3.4 4.2 9.1 7.0 11.0
女性 1.6 2.9 2.8 1.6 2.0 3.5 13.7

(注)1.2015年は、不詳按分のため国勢調査と必ずしも一致しない。2.網掛け部分は、「1985年との比較」で4.0倍以上。

(資料)1985年は、総務省『国勢調査』時系列データ。2015年は総務省『平成27年国勢調査』(年齢不詳分を按分処理)により藤森作成(©2018みずほ情報総研)。

 次に、男女別・年齢階層別の単身世帯の増加状況を見ていきましょう。1985年を1倍にすると、2015年までに最も単身世帯の増加倍数が高いのは80歳以上の女性で13.7倍になります。また、80歳以上の男性も倍数にするとかなり高く、11.0倍になります。さらに、男性においては、中高年でも単身世帯が増えており、50代男性は4.2倍、60代男性ですと9.1倍となっています。

3.単身世帯はなぜ増加するのか

 では、なぜ単身世帯は増加するのでしょうか。単身世帯が増加する要因を分析するには二つの視点が必要です。一つは、人口の増加による要因です。どの時代も、一定の割合の単身世帯がいるとした場合、人口規模が増えれば、それに応じて単身世帯は増えていきます。私は、この要因を「人口要因」と呼んでいます。もう一つは、人口規模が変わらなくても、人々のライフスタイルの変化によって単身世帯が増えていくことです。これは、人口増加に依存しない要因なので、「非人口要因」と呼んでいます。

1985年~2015年にかけての単身世帯の増加倍率について寄与度分析
image04.png

(注)分析手法は、藤森克彦(2017)『単身急増社会の希望』日本経済新聞出版社、p.42参照。
(資料)1985年は、総務省『国勢調査』時系列データ。2015年は総務省『平成27年国勢調査』(年齢不詳分を按分処理)により藤森作成。

 具体的にみていきましょう。単身世帯の増加倍率について寄与度分析をすると、50代男性の場合、紺色の人口要因はわずかにすぎず、橙色の非人口要因が大部分を占めています。つまり、ライフスタイルの変化によって50代男性の単身世帯は増加しています。

 では、非人口要因とは何でしょうか。50代男性の単身世帯を増やした大きな要因は、未婚化の進展です。未婚者とは、生涯に一度も結婚をしたことのない人を言いますが、未婚者は配偶者がいないという点において、ひとり暮らしになりがちです。実際、生涯未婚率(50歳時点での未婚率)の推移を見ると、男性の生涯未婚率は1980年代まではずっと5%以下でしたが、90年代以降上昇して2015年は23%になりました。ちなみに、女性の生涯未婚率も大きく増加しており、2015年には14%に達しています。現状の傾向が続きますと、2040年には男性の生涯未婚率は29%、女性の同割合は18%になると推計されています。

生涯未婚率(50歳時点の未婚率)の推移
image05.png

(資料)2015年までの実績値:国立社会保障・人口問題研究所編『人口統計資料集2018』2017年。
将来推計:同『日本の世帯数の将来推計(全国推計)(2018(平成30)年1月推計) (結果表4)』に基づき、藤森計算(©2018みずほ情報総研)。

 では、80歳以上の男女で、なぜ単身世帯が大きく増加したのでしょうか。この一つの要因は、1985年から2015年にかけて医療の進歩などによって寿命が延び、人口が増加していることがあげられます。つまり、人口要因によって単身世帯が増えています。

 しかし、人口要因だけでは80歳以上の単身世帯の増加は説明できません。前掲の寄与度分析のグラフに示されているように、非人口要因による単身世帯の伸びも大きいです。では、単身高齢世帯を増やす非人口要因は何かというと、親と子が同居しなくなったというライフスタイルの変化があげられます。例えば、夫と死別した80歳以上の母親とその子との同居率は、1995年は69.7%でしたが、2015年は46.8%に減っています。わずか、20年間で、約23ポイントも低下したのです。

配偶者と死別した老親とその子供との同居率の減少

(単位:%)

男性(親) 女性(親)
年齢 60代 70代 80歳以上 60代 70代 80歳以上
1995 53.0 57.3 66.6 58.0 62.9 69.7
2015 40.9 38.0 42.8 48.7 45.5 46.8
-12.1 -19.3 -23.8 -9.3 -17.4 -22.9

(資料)総務省『国勢調査』1995年と2015年に基づき、藤森作成(©2018みずほ情報総研)。

 それから、今後注目すべきなのは、高齢者の中で未婚化が進展していて、これが単身高齢者の増加要因になっているという点です。例えば、70代単身男性の未婚率は、1985年は5.3%だったのが2015年は25.2%に上がりました。現在、単身高齢者の約6割は配偶者と死別した人ですが、これからは未婚の単身高齢者の比率が増えていきます。そして、同じ単身高齢者といっても、「配偶者と死別した単身高齢者」と、「未婚の単身高齢者」では大きな違いがあります。それは、未婚の単身高齢者は、配偶者だけでなく、子供がいないことが考えられる点です。このため、老後を家族に頼ることが一層行いにくくなることが考えられます。

70代単身男性における未婚率の高まり

(単位:%)

70代単身男性 70代単身女性
未婚 有配偶 死別 離別 未婚 有配偶 死別 離別
1985年 5.3 12.2 69.9 12.6 4.1 2.3 88.4 5.2
2005年 13.6 8.3 57.1 21.0 10.9 2.5 76.9 9.8
2010年 19.3 8.0 47.6 25.1 11.0 2.8 74.6 11.6
2015年 25.2 8.0 39.0 27.7 11.5 3.1 70.5 14.9

(注)配偶者関係不詳分を除いて計算。したがって、未婚、有配偶、離別、死別の割合を合計すると100%となる。
(資料)総務省『国勢調査』1985年版、2005年版、2010年版、2015年版により、藤森作成(©2018みずほ情報総研)。

 次に、今後の単身世帯の増加状況について、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計をみていきましょう。2015年と2030年の男女別・年齢階層別の単身高齢者の増加状況をみると、今後は、80歳以上の男女で、ひとり暮らしが大きく増加していくと推計されています。例えば、80歳以上の単身女性は、2015年の167万人から2030年には258万人と1.5倍になると推計されています。また、80歳以上の単身男性も、2015年の46万人が2030年に92万人と2倍になるとみられています。増加率としては、80歳以上女性よりも、80歳以上男性の方が大きくなります。また、2030年には、男性では50代男性が単身世帯数を最も多く抱える年齢階層となり、186万人になっていくとみられています。このように、今後、20代の単身世帯数が減少して、80歳以上の高齢男女や、50代・60代男性で単身世帯が増えていくとみられています。

男女別・年齢階層別にみた単身世帯数(推計値、2030年)
image06.png

(資料)国立社会保障・人口問題研究所 『日本の世帯数の将来推計(全国推計)』(2018年1月推計)に基づき、藤森作成(©2018みずほ情報総研)。

4.単身世帯の増加と生活上のリスクの高まり

 以上のように、中高年男性や高齢者で単身世帯は増えていきます。それに伴って、生活上のリスクも高まっていくことが懸念されます。

藤森3.jpg

 なお、私は「ひとり暮らしは問題だ」と言っているわけではありません。そもそも「ひとり暮らしをするか、しないか」は個人で判断すべきことだと思います。また、元気なうちであれば、ひとり暮らしの生活上のリスクは顕在化していません。実際、ひとり暮らし高齢者に「誰と一緒に暮らしたいか」を尋ねると、7割のひとり暮らし高齢者は、「今のままひとり暮らしを続けたい」と応えています。ひとり暮らしには、それだけの魅力があるのだと思います。

 問題は、いざというときの対応です。「家族依存型福祉国家」といわれるように、家族に依存した支え合いを「標準」としてきた日本において、同居家族のいない単身高齢者はいざというときの生活上のリスクへの対応が二人以上世帯の高齢者よりも困難になりがちだと思うのです。いざというときに、家族がいなくても、支えていける体制を社会で作っていくことが大切だと思っています。以下では、単身世帯が陥りやすい生活上のリスクとして、貧困リスク、要介護リスク、孤立リスクをみていきたいと思います。

4-1.貧困リスクの高まり

 まず、貧困リスクについて、高齢世代と現役世代に分けて、世帯類型別の相対的貧困率(2012年)をみていきましょう。まず、高齢者全体の相対的貧困率は男性15%、女性22%なのですが、高齢単身世帯では、男性29%、女性45%となっていて、高齢者全体の約2倍の水準です。

 相対的貧困率の説明はやや複雑なのですが、世帯規模を調整した可処分所得を「等価可処分所得」と言います。そして、等価可処分所得を、低い人から高い人に順に並べていき、総数の真ん中の順位の人の等価可処分所得を把握します。さらに、真ん中の人の等価可処分所得を2で割り返して半分にし、半分にした所得を基準に、それ以下で暮らしている人の割合が「相対的貧困率」になります。つまり、「真ん中の人の等価可処分所得の半分の所得」を「貧困ライン」として、貧困ライン以下で生活する人の割合が「相対的貧困率」です。2012年の貧困ラインは年収ベースで122万円です。これ以下の所得で暮らす人の割合が相対的貧困率となります。先述の通り、単身高齢者の相対的貧困率は、高齢者全体の2倍の比率にのぼっています。今後、単身高齢者が増加していくとみられていますので、それに伴い、貧困に陥る高齢者も増えていくのではないかと懸念されます。

世代類型別にみた高齢者の相対的貧困率

image07.png

(資料)阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006、2009、2012年」貧困統計ホームページ

 では、なぜ単身高齢者で貧困に陥る人の比率が高いのでしょうか。一つは、単身高齢男性を中心に、現役時代に保険料を払っていない無年金者の比率が高いことがあげられます。単身高齢男性の約1割が無年金者となっています。もう一つは、単身高齢者では、女性を中心に、基礎年金だけで暮らしている人の比率が高いことがあげられます。現役時代に非正規労働や無職の期間が長かった人で、未婚や離婚によってひとり暮らしになった方が多いように思います。

 それから、経済的困窮という点では、単身高齢者では持ち家率が低いことにも留意しなくてはいけません。70歳以上の2人以上世帯の持ち家率は88.5%ですが、70歳以上の単身高齢者の持ち家率は68.4%と、約20ポイントも低くなっています。換言すれば、単身高齢者は、二人以上世帯高齢者に比べて借家住まいの方が多く、高齢期に年金の中から家賃を負担しなければなりません。年金収入に占める家賃負担の比率が高いと、経済的困窮に陥る一因になります。

単身世帯と二人以上世帯の持ち家率の比較(2013年)
30代 40代 50代 60代 70歳以上
二人以上世帯 50.1 69.9 81.3 87.0 88.5
単身世帯 10.8 24.3 38.2 53.8 68.4
単身男性 12.1 23.0 33.9 49.2 64.8
単身女性 8.7 26.7 45.6 58.7 70.0

(注)1. 二人以上世帯の年齢階層は、世帯主の年齢に基づく。
2. 持ち家率は、「持ち家の世帯数/主世帯数」で算出。

(資料)総務省『平成25年住宅・土地統計調査』(確報集計 第59表)、同『平成25年住宅・土地統計調査』(確報集計 第39表)

 次に、現役世代(20~64歳)の相対的貧困率を世帯類型別にみると、単身世帯の相対的貧困率は「ひとり親と未婚の子のみの世帯」に次いで高い水準になっています。現役世代の単身世帯の貧困率が高い水準にある一因は、単身世帯は非正規労働者や無職者の比率が高いことがあげられます。単身世帯だから非正規労働になったというよりも、非正規労働であるが故に、結婚を躊躇して単身世帯になった方が多いのではないかと考えています。特に、90年代の就職氷河期以降、非正規労働に従事する人が増えました。男女別・年齢階層別の非正規労働者比率を見ると、特に25~34歳男性の非正規労働者の割合は1990年に3.2%だったのが、2015年は16.5%に増えています。

世代類型別にみた現役世代の相対的貧困率
image08.png

(資料)阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006、2009、2012年」貧困統計ホームページ

男女別・年齢階層別にみた 雇用者に占める 非正規労働者の割合の推移
男性 女性
25-34歳 35-44歳 45-54歳 25-34歳 35-44歳 45-54歳
1990年 3.2 3.3 4.3 28.2 49.7 44.8
2015年 16.5 9.7 9.5 41.3 55.3 59.1

(資料)総務省『労働力調査』により藤森作成(©2017みずほ情報総研) 。1990-2000年は2月の数値。 2005-2015年は1~3月の平均値。

 また、年齢別にみた正規労働者と非正規労働者の未婚率を見ると、例えば、30代男性の正規労働者の未婚率は30.7%であるのに対し、30代男性の非正規労働者の未婚率は75.6%にのぼっています。非正規労働に従事する男性で未婚率が高くなっています。一方、女性は男性と逆で、正規労働者の方が未婚率は高くなっています。この背景には、女性の場合、結婚して子育て中にパート労働に従事する人の割合が高いことが考えられます。

年齢階層別にみた正規労働者と非正規労働者の未婚率
image09.png

(資料)厚生労働省政策統括官付政策評価官室『平成22年 社会保障を支える世代に関する意識等調査報告書』により作成。

4-2.介護需要の高まり

 次に、要介護リスクについて、みていきます。介護保険ができたとはいえ、要介護者を抱える世帯に「主たる介護者は誰か」を尋ねると、その7割が「家族」と回答しています。しかし、単身世帯は同居家族がいません。では、単身高齢者が要介護となった場合、誰が「主たる介護者」になっているかというと、その5割が「事業者」と回答しています。介護保険を通じた外部事業者が「主たる介護者」になっているのだと思います。残りの5割は、「子」や「子の配偶者」などの別居の家族が「主たる介護者」となっています。一方、夫婦のみ世帯や三世代世帯の要介護者では、家族が「主たる介護者」になっていて、事業者が「主たる介護者」となっているのは1割未満です。

藤森4.jpg

 今後、単身世帯が増えると、「事業者」が主たる介護者になるケースが増えるだろうと考えています。特に、今後一層増加していく「未婚の単身高齢者」は、配偶者だけでなく子供もいないことが考えられますので、別居家族による介護も難しくなります。身寄りのない単身高齢者が要介護となった場合、どのように支えていくのかが社会としての課題だと思います。

世代類型別にみた「主な介護者」の続柄
image10.png

(注)要介護者のいる世帯を対象。「主な介護者」の「不詳」を除いて計算。
(資料)厚生労働省『平成28年国民生活基礎調査』により藤森作成(©2018みずほ情報総研)。

 この点、懸念されるのは、介護労働者の不足です。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計をみますと、2015年から2030年にかけて生産年齢人口(15~64歳)は年平均で57万人ずつ減っていくとみられています。一方、介護人材は年平均で約7万人増やす必要があるといわれています。生産年齢人口が減っていく中で、介護労働に従事する人を7万人増やすことは大変なことです。まずは、介護従事者の処遇の改善をしていかないと、この分野に人は集まらないと思っています。

 また、要介護認定率が高くなるのは、75歳以上なのですが、今後75歳以上の単身高齢者が増えていくのは、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県といった大都市圏です。大都市圏で、どのようにひとり暮らし高齢者を支えていく体制を整備するのか考えなくてはいけません。

生産年齢人口の減少と介護人材の需要見込み

image11.png

2015年~2030年にかけての75歳以上単身世帯の都道府県別伸び率(上位10位)
順位 2015年~2030年の単身世帯の伸び率(%)
全国平均 39.3%
1 埼玉県 63.9%
2 千葉県 58.2%
3 神奈川県 57.5%
4 愛知県 50.9%
5 栃木県 50.6%
6 滋賀県 49.9%
7 沖縄県 48.2%
8 京都府 47.2%
9 奈良県 46.1%
10 茨城県 43.5%

(注)2030年将来推計は、国立社会保障・人口問題研究所による総務省『平成22年(2010年)国勢調査』に基づく「2010年基準推計」 。
(資料)国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)』(2014年4月推計、同『日本の地域別将来推計人口』(2013年3月集計)、総務省『国勢調査』2015年版により筆者作成。

4-3.社会的に孤立する人々の増加

 次に、社会的孤立のリスクをみていきたいと思います。社会的孤立リスクを会話頻度からみると、高齢単身男性では「2週間に1回以下しか会話していない」という人が16.7%いて、高齢単身女性の3.9%よりも高い水準です。また、他の世帯類型をみても、高齢夫婦のみ世帯では男性4.1%、同女性1.6%と低くなっています。夫婦であれば、会話が行われて、孤立に陥りにくいのですが、単身高齢男性では会話頻度が著しく低い水準です。さらに、地域との関係性を見ると、「心配事の相談相手がいない」「近所づきあいがない」と回答した高齢者は、単身高齢男性で高くなっています。

65歳以上高齢者の世帯類型別にみた会話頻度

(単位:%)

毎日 2~3日
に一度
4~7日
に一度
2週間
に一度
男性 単身世帯 50.0% 18.3% 15.1% 16.7%
夫婦のみ世帯 85.4% 8.1% 2.4% 4.1%
女性 単身世帯 62.8% 24.9% 8.4% 3.9%
夫婦のみ世帯 86.7% 8.6% 3.1% 1.6%

(資料)国立社会保障・人口問題研究所『2012年社会保障・人口問題基本調査-生活と支えあいに関する調査結果の概要』に基づき、藤森作成(©2018みずほ情報総研)。

 同じ単身高齢者であっても、男女で会話頻度や地域との人間関係に違いがあるのは、男性の場合、現役時代は会社の人間関係が主で、年を取ってから地域で人間関係をつくるのはなかなか難しいということもあるのだろうと思います。それに対し、女性の高齢者は専業主婦だった人が多いので、地域との関係を現役時代から持っていることも考えられます。

65歳以上高齢者について世帯類型別にみた地域における人間関係
image12.png

(資料)内閣府『世帯類型に応じた高齢者の生活実態等に関する意識調査(平成18年度)』2006年により、藤森作成(©2018みずほ情報総研)。

 それから、社会的孤立については、「いざというときに頼れる人がいるかどうか」も指標になっています。そこで、単身高齢者に対して「病気のときや日常生活に必要な作業のときに頼れる人の有無」を尋ねた国際比較調査をみると、日本の場合、「別居家族」「頼れる人なし」と回答する人が多くなっています。一方、アメリカ、ドイツ、スウェーデンでは「友人」「近所の人」に頼る比率が高いです。高齢者のひとり暮らしの比率は日本よりも欧米諸国の方が高いのですが、欧米諸国では近所や友人との関係がひとり暮らしを支える一因になっているように思います。地域や友人との関係性をいかに築いていくのか、という点は、今後日本で重要になっていくだろうと思います。

病気や日常生活に必要な作業について同居家族以外に頼れる人の有無(複数回答)
単身世帯
別居家族 友人 近所の人 その他 頼れる人なし
日本 67.3% 21.1% 15.8% 7.0% 12.9% 171
米国 55.9% 48.0% 27.0% 9.2% 13.1% 381
ドイツ 63.3% 46.0% 45.0% 5.9% 6.1% 409
スウェーデン 58.0% 49.1% 30.1% 9.6% 9.2% 479

(資料)藤森克彦(2016)「単身高齢世帯(一人暮らし高齢者)の生活と意識に関する国際比較」(内閣府『高齢者の生活と意識―第8回国際比較調査結果報告書』2016年3月)。

5.単身世帯の増加に対して求められる政策

では、単身世帯の増加に対して、どのような対策が必要でしょうか。ひとり暮らしの増加に対する対策は三つあるのではないかと私は考えています。

藤森5.jpg

 第一に、社会保障の機能強化です。例えば、先述の通り、単身高齢者の増加に伴って、今後、介護サービスへの需要が高まっていくと思います。一方で、介護労働者の不足が懸念されます。介護労働者を確保するには、処遇の改善が必要です。そのためには、財源を確保しなくてはいけません。税や社会保険料の引き上げが不可欠です。

 一方、税や社会保険料の引き上げには反発が強いです。しかし、冒頭で述べた通り、政府の役割である社会保障を抑制すれば、家族の負担が増えていくだけです。政府の役割を減らしても、負担の在り方が変わるだけであって、介護ニーズがなくなるわけではありません。しかも、今後増えていく未婚の単身高齢者は、家族介護を期待することが一層難しくなると思います。

 幸いなことに、日本の国民負担率(GDPに占める租税と社会保険料の負担割合の合計)は主要先進国に比べて低い水準であり、税や社会保険料の引き上げの余地は残されています。具体的には、2016年の日本の国民負担率(31.2%)は、米国(26.34%)よりも高いものの、イギリス(34.3%)、スウェーデン(37.6%)、ドイツ(39.9%)、フランス(47.7%)よりも低い水準にあります。

 ただし、日本は巨額の財政赤字を抱えているので、借金の元利払いもしなくてはいけません。険しい道のりではあるのですが、税や社会保険料の引き上げによって、「財政再建」と「社会保障の機能強化」を両立させていくしかありません。

 二つ目に、地域づくりです。地域づくりは難しく、なかなか進まないのですが、やっていかなくてはいけません。なぜ難しいかというと、支え合いのネットワークの築き方は、地域ごとに異なっていて、一律の制度で対応できないからだと思います。身寄りのない単身高齢者であっても、安心して住み慣れた地域で自立した生活を送れるように、医療、介護、生活支援などを提供者が、地域ごとにネットワークを築くことが求められています。

 また、「住民サイドのネットワーク」の構築も重要になっています。地域の住民同士で交流し、支え合える関係をどのように築いていくのか。先ほど申し上げた通り、今後75歳以上の単身高齢者が増えていくのは大都市圏です。大都市圏の大規模団地やマンションなどでは、隣近所と人間関係が築かれていないことも珍しくありません。大都市圏で、どのように住民ネットワークを築いていくのかは大きな課題となっています。

 三つ目に、働き続けられる社会の構築です。働くということは、経済的困窮を防ぐだけでなく、社会的孤立の防止にもつながります。働けば、職場の同僚との間で人間関係が生まれます。仕事を通じて社会との接点ももてます。働くことは、単に収入を得るためだけでなく、社会的孤立にも有効なのですね。20年前と比べて今の高齢者の健康状況は10年若返ったといわれています。そうであれば、働く環境を整備して、働く意欲をもつ元気な高齢者には、できる限り長く働くという選択肢があってもいいと思います。毎日フルタイムで働くのではなく、プチ就労という働き方もあります。働き方を多様化していくことが大切だと思います。

 また、今後、少子高齢化によって、公的年金の給付水準の低下が予想されています。しかし、働く意欲のある高齢者は、働き続けることによって、少子高齢化による公的年金の減少を補うことができます。具体的には、公的年金の受給開始年齢を65歳よりも遅れらせることができれば、割増年金を受けることができます。例えば、68歳から受給すれば、65歳からの受給に比べて25%増、70歳からであれば42%増の年金を受給できるようになります。

 ただし、全ての高齢者が働けるわけではありません。働くことが困難な人々には、セーフティーネットの強化と地域における居場所作りが重要になると思います。また、若者や中年層を含めて、就労困難者には、ケアをしながら職業訓練を行なえる場が必要になると思います。

 冒頭で申し上げた通り、現在、日本は岐路に立っていると思います。確かに、巨額の財政赤字を抱えるなど、「重苦しい現実」はあります。しかし、台風の進路を人間の力で変えることはできないのですが、財源をきちんと確保して、支え合う社会を構築することは、国民の意思でできることだと考えています。立ちはだかる壁は高いのですが、未来には「別の選択肢」がありうる。そこに、希望があるのだと考えています。

藤森 克彦 福祉経営学部(通信教育)教授

※この講演録は、学校法人日本福祉大学学園広報室が講演内容をもとに、要約、加筆・訂正のうえ、掲載しています。 このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

pagetop