能登半島地震から2カ月以上が経過したが、まだまだ多くの方が避難所に避難され、不自由な暮らしを余儀なくされている。
過去の震災から次のことがデータとして示されている。1995年の「阪神・淡路大震災」で、災害時に最も被害を受けるのが、災害時要援護者(高齢者、障害者ら)だと明確になった。2011年の「東日本大震災」でも、津波などによる直接死は1万5千人超、避難所や仮設住宅の中での死者(災害関連死)が3千人以上となった。避難所や仮設住宅に移ってから亡くなった方の9割が66歳以上の高齢者で、死亡原因は「避難所生活の肉体・精神的な疲労」(47%)、「避難所への移動による疲労」(37%)、「病院の機能停止による既往症の悪化」(24%)であった。
また、「東日本大震災」では、6割の高齢者や障害者らが避難所に避難していなかったことがわかった。その理由として「周囲の支援がなく、避難することができなかった」(32%)、「身体が不自由で避難できなかった」(8%)が挙げられ、「避難できずに被災した自宅での生活を余儀なくされた」という記録が残されている。
さらに被災後、「認知症」「アルコール依存症」「うつ傾向」など、医療・保健・福祉の支援を必要とする人の増加も明らかになった。宮城県では、アルコール依存症と診断された患者数が震災前の年平均を上回り、特に津波被害の大きかった気仙沼、石巻地域などで増加傾向が目立ったという報告がある。
被災時、状況の急激な変化によって、人々は極限状態におかれ、困難を強いられ、さまざまな症状が表出し、いのちや暮らしの危険にさらされる。このような危機的状況で注目され始めたのが、さまざまな場面で活躍するソーシャルワーカー(以下SW)である。
SWは「人間の尊厳」を価値基準とし、それが阻害される状況にあるときは、真っ向から立ち向かう。特に災害時は自助による生命保持や生活再建が求められる中、見過ごされがちな要援護者の存在を顕在化し、人間としての尊厳を強く訴えかけていかねばならない。
そしてSWの動きは、災害が発生する前から始まっている。災害時要援護者一人ひとりの避難計画作成など、地域の防災・減災に計画の段階から参加し、発災後は人々の生命や財産を守ることに加え、被災者が抱える問題を発見し、生活を再建し、支えることに全力を尽くす。したがって災害時のSWには、とりわけ次の五つの視点が必要だと考えられている。
災害が起こったその瞬間から、「助かったいのちを生かす」被災後の「暮らし」が始まる。少しでも快適な「暮らし」、生きているからこそ意味ある「暮らし」を守り通すことが、災害時のSWの役割として一層期待されている。
※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2024年3月12日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。