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障害がある人の生活を支援する

アシスティブテクノロジー

 テクノロジーの発展と普及は、障害がある人の多様な社会生活や活動を支えている。さらには、合理的配慮の提供手段としても重要な役割を担うとともに、ICT活用は「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の基本理念の実現に大いに期待されている。

 障害の有無に関わらず誰にとっても最も身近なテクノロジーはスマートフォン(以下、スマホ)であろう。そのためスマホには、誰もがアクセスできるようにアクセシビリティ機能が標準装備されている。アクセシビリティ機能とは利用者の身体状況や操作方法などに応じて、設定やインタフェースが変更できる機能である。

 例えば、肢体不自由や認知の障害によって複雑な手順や巧緻性が求められる動作が難しい場合、タッチ操作の誤操作を少なくする、指1本で画面上の地図や文字を拡大縮小できるようにする、画面タッチのみで電子図書のページをめくることができるようにするなどの、一人ひとりの特性に合わせた設定ができる。

 重度の肢体不自由によりタッチ自体が難しい場合、一つのスイッチを使うだけでスマホ操作を可能とする機能も備えている。また、視線トラッキング(目の動きでスマホを操作)も実装され始めている。

 一方、視覚に障害がある人や文字の理解が難しい人は、スクリーンリーダー(画面操作の内容、画面上で選択されている項目、画面上の文字などを読み上げる機能)を利用してスマホを使うことができる。

 ICTをはじめとするテクノロジーが、障害のある人や高齢者の生活に有効に活用されるためには、その活動場面での個々人の困難さをテクノロジー利用によって補うとともに、本来もっている自身の能力を拡張し、活動に参加できるようにすることである。例えばコミュニケーション活動において、会話の代替手段としてチャットアプリを使う、頭で記憶しておくことやメモを書く替わりにカメラや音声録音機能を活用する、読むことが苦手でもOCRアプリを使って読み上げさせ、聴くことで文章の内容を理解するなどが考えられる。

 また、印刷物障害(Print Disability)という言葉を聞いたことがあるだろうか。紙の印刷物にアクセスすることが困難な人や状態を指す。そこで紙の情報をICT機器で利用できるデジタルデータとし、その利用者が扱える・理解できるメディアに変換すれば、印刷物障害の状態をなくすことできる。

 このように個々人の機能障害ではなく、"誰にでも起こり得る生活上の障害"つまり、社会にある問題としてとらえれば、障害はなくすことが可能だと言える。そして、テクノロジーが効果的に利用されることで利用者が見通しを持つことができ、希望が生まれ、それが次への動機付けにつながり、さらに生活の幅が広がることであろう。

 2024年8月23日(金)から25日(日)に、「第38回リハ工学カンファレンスin東海」が愛知県東海市で開催される。ぜひ、人の生活に寄り添うアシスティブテクノロジー(Assistive Technology)の世界に触れていただきたい。

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健康科学部 渡辺崇史教授

※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2024年7月24日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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