現在、医療保険や介護保険による訪問看護は身近に利用される社会資源となっている。この訪問看護は身体疾患や障がいをもつ利用者を対象とする場合だけではなく、地域生活を送る精神障害者を対象に行われている場合もある。精神障害者を対象とする訪問看護(精神科訪問看護)は、地域に出向いて医療を提供するアウトリーチ型のサービスとして、利用者が地域で安心して暮らせるように、病状管理だけではなく、利用者自身が家事や趣味など自らの生活を自己決定していくことを支援する。この精神科訪問看護は、精神疾患患者の療養が病院中心に行われていた1960年代から病院などの医療機関の従事者によりボランティア的な活動として行われていた。それが訪問看護ステーションの設立後、2000年代から徐々に広まっている。当時筆者が行った精神疾患になじみの薄い訪問看護ステーションの看護師へのインタビュー調査では、精神疾患をもつ利用者への訪問に不安や恐怖を感じることもある一方で、一度利用者に関わると、先入観で恐怖を感じていたことや「普通の人」であることに気づくと話されていた。
実際の訪問看護では、看護師は利用者の自宅などを訪問し、利用者が病気をもちながら生きる「生きづらさ」を感じていれば看護師は話をうかがい、料理の習得を希望すれば看護師も一緒に行い、楽器を弾くことを楽しみにしていれば楽しみを共有する。そのような何気なく感じられる支援が精神障害をもつ当事者にとっては回復の足がかりになっている。また、家族にとっても医療職者からのサポートを受けることで安心につながる。利用者は人との関わりを通して自らのストレングス(強み)に気づき、それを発揮できるようになる。このように、精神科訪問看護は利用者が精神障がいを抱えながらも希望や自尊心を持ち、自分らしく生活することを目指す、リカバリー志向の支援といわれている。
精神疾患は「5大疾病」として、国民に広く関わる疾患として重点的な対策が必要と判断されている。わが国の地域精神保健医療福祉施策において、これまで精神障害者の地域生活支援は重要視されており、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を目指した取り組みがなされている。その中で日常の医療として精神科訪問看護の重要性が指摘されており、実際に訪問看護件数は近年急増している。精神科訪問看護は訪問看護全体よりも実施件数の増加割合が大きくなっており、診療報酬改定にあたり、質の高い訪問看護の確保のため、精神障害を有する者への訪問看護の見直しも行われている。
精神看護はその技術の説明が難しいといわれており、訪問看護の場面でどのような関わりが行われ、どのような支援が利用者にとって有効であるのかをより明確にしていくことで、今後、質の高い訪問看護の提供がなされることを期待する。
※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2024年8月28日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。