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IT人材としての発達障害者

人の性質捉え直し、就業可能性高める

 改めて豊かな社会とは何かと問われると意外と回答に窮するものだ。当然ながら、人々の価値観によってその定義は分かれるはずである。それゆえここでは、豊かな社会とは、どのような性質を有した人であっても何かしらの形で社会に関与できるような社会、つまり人々が孤立しないような社会であるとしよう。

 社会への関与は、必ずしも個人から社会への働きかけという一方向のものとは限らない。個人の視線が他に向いていたとしても、社会の方から包含することもできよう。それらの関係すべてを扱うのは紙幅の都合上難しいので、労働を通した社会への関与を希望する人々の支援、とりわけ自閉スペクトラム症など発達障害者の就業について考えたい。

 近年の発達障害を含む精神障害者の増加にともない、その雇用を支援するために障害者雇用促進法が改正されてきた。2013年の同法の改正に基づき、2018年4月より精神障害者が障害者雇用義務の対象に加えられた。また、法定雇用率を算定する際に、一定の要件を満たしていれば、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の精神障害者も雇用者1人分として計上されるようになった。これは、長時間の勤務が困難な精神障害者の実態を踏まえた対応である。2022年の法改正では、この措置が当面継続されるとともに、2024年4月より所定労働時間のさらに短い精神障害者についても、週10時間以上勤務していれば1人あたり0.5人分として計上されるようになった。

 発達障害者の就業に求められるのは、労働時間の柔軟性の確保だけにとどまらない。発達障害者の性質を生かした就業環境の整備も必要である。25年ほど前からニューロダイバーシティーという言葉が使われるようになった。人にはそれぞれ神経学的な違いが存在し、とくに発達障害と呼ばれるものを能力の欠如といった障害ではなく、自然に発現する1つの変異として捉えるという考え方である。

 このように発達障害者の性質を捉え直した人材マネジメントによって、人材不足が指摘されるIT分野において発達障害者の職業適性の高さが近年注目されている。基礎的なITスキルの訓練を行うだけではなく、データアナリストやAIエンジニアといった高度なIT人材としての就業実績を増やしている就労移行支援事業所も存在する。

 愛知県犬山市に本社を置く株式会社ココトモファームは、米の生産からバウムクーヘンの製造・販売まで6次産業を営む企業である。同社はITシステム開発や就労移行支援・継続事業を行うグループ企業も有しており、農福連携の実績もさることながら、障害の有無を問わず労働者の性質に応じた職場を提供できる強みがある。発達障害のある労働者はシステム開発事業に携わり、今後はスマートなIT技術を活用した農業、すなわちスマート農業にも貢献するだろう。

 コミュニケーションの困難を乗り越えて適性の高さを活かせる就業環境をいかに整備するか、そのマネジメントが発達障害者の就業の可能性を高めるのである。

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経済学部 中野 諭教授

※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2024年9月25日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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