こどもを取り巻く社会状況は、児童虐待・不登校・自殺は増加を続け、こどもの貧困も深刻である。助けを求められず、さらに重篤化していくケースが多く見られる。行政機関による対応が頼みの綱となるシステムの限界が来ていると考えられる。この状況の打破のためにラップアラウンドというアプローチに注目している。
1980年代に米国で生まれたラップアラウンドは長期に施設や病院に入ったこどもが家族や地域とのつながりが切れて居場所を失い、結果的に予後が悪くなるという点に注目し、家庭を離れる状況になる前に困難を抱えるこどもや家族を包み込んで地域で包括的に支援を行うことを提唱し、それを「ラップアラウンド」と名付けたところから始まる。
当事者を真ん中に児童相談所、市町村の関係課、学校などの公式な支援機関・支援者と親族、友人、職場の同僚などの非公式な支援者がチームを作って、こどもとその家族の状況を改善するためにチームで支援プランを考え、それを実行していく1年から2年間のプロセスである。
ラップアラウンドでは、まず家族の強みや家族がどうなっていきたいのかをこどもや家族から聞くことから始める。ラップアラウンドは当事者の「ために」ではなく、「ともに」を重視し、対話を進める。チームで作った支援プランをそれぞれが実行し、それをふりかえる。うまくいけば皆でお祝いをし、うまくいかない場合は検討して、修正を繰り返す。
ラップアラウンドのゴールは問題をなくすのではなく、ラップアラウンド終了後に、問題が生じても適切な相談先を持つこと、家族という名前の車の運転席に当事者が座って運転できる力をつけることである。そのため、地域に活用できる資源を増やすことも行なう。ラップアラウンドのチームを構築し、会議で進行役を担うのはケアコーディネーターであり、ケアコーディネーターと緊密に連携をとって活動するのがユースサポーター、ファミリーサポーターである。
ラップアラウンドの対象者の多くは自信を失ない、専門職に対して、不信感や怒りを抱いていることもある。そのため、かつて自らが支援を受けたことがあるユースサポーター、ファミリーサポーターが自身の経験を活かして、こどもと家族に寄り添い、声を引き出していく。
現在、日本版ラップアラウンドのケアコーディネーター養成研修を開催するとともに、自治体や施設、民間団体などモデル実装先の方々に伴走している。施設からの家庭復帰や自立支援、里親家庭への支援など興味深い実践事例が蓄積されてきている。ラップアラウンドを取り入れると当事者の変化だけでなく、支援者も元気になってくるという報告も多いのが興味深い。今後も人と人、人と地域がつながる社会に向けて、この活動を続けていきたい。
※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2024年10月25日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。