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加害者となる子どもたちへの理解

心の声に耳を傾けたい

 子どもが加害者となる事件のニュースを目にするたび、この子どものこれまでの人生はどうだったのだろうかと思う。どのような家庭で育ったのか、自分自身の人生に肯定感を持てていたのか、支えとなるものはあったのか、孤独ではなかったか...など。

 子どもが育つ家庭環境や、特に親をはじめとする養育者の養育状況、それらが十分でない場合の支援の状況などが、子どものその後の人生に大きな影響を与える。これらに恵まれないまま加害事件につながったとしたら、果たして子どもが加害者となるに至った責任の根本はどこにあるのか。

 児童福祉法により各都道府県に設置が義務付けられている児童自立支援施設という施設がある。「不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、その自立を支援することを目的とする(児童福祉法第44条から抜粋)」施設である。長くこの施設で勤務したが、入所する子どもの中に、家庭環境や親の養育に全く課題がないというケースをみた記憶がない。不良行為や加害行為に至る前の育ちの歴史をさかのぼると、多くの子どもが虐待や不適切な養育を受けたことなどによる被害体験や、家族との離別などの喪失体験があり、深い傷つきや見捨てられ感、孤独感などさまざまな苦しみを抱えていた様子が浮かび上がってくる。

 また、その状況を行政や関係機関がキャッチしていたとしても対応までに時間がかかったり、新しい養育環境が用意されても再びそこで虐待を受けたりと、苦しい体験を幾度も繰り返したケースも少なくない。

 そして子どもに家出、暴力、盗み、薬物使用、売春などの行動化が表れてくると、問題性の対象は子ども自身へと移行し、必然のストーリーのように被害者であった子どもが、加害者に転じていく。

 子どもの不良行為や加害行為は、子どもが鳴らす大人への警鐘だ。生まれながらにして犯罪に走る運命が確定している子どもなどいない。であれば、子どもを加害者にしてしまった大人が、地域社会が、国が、責任をもって非行ケースや少年犯罪ケースの根本的要因を分析し、こぼれ落ちる子どもが生み出されない社会になるよう、策を講じなければならない。

 近年、国は虐待防止対策や保護された子どもが暮らす社会的養護の充実など、子ども家庭福祉の推進に力を入れている。2023年4月に施行された「こども基本法」の基本理念(第3条)では、すべての子どもについて、個人として尊重されること、適切に養育されること、愛され保護されること、意見を表明する機会が確保されること、その意見が尊重されることなどを盛り込み、国が子どもの権利擁護に本気で取り組む姿勢が窺われる。

 すでに加害者となってしまった子どもに対して「あなたは何も悪くない」と言うことは難しい。が、子どもの心の声に耳を傾け、「あなたは悪い子ではない」、「あなたも幸せになる権利がある」と伝えたい。

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河尻 恵 福祉経営学部教授

河尻 恵 福祉経営学部教授

※この原稿は、中部経済新聞オピニオン「オープンカレッジ」(2025年2月27日)欄に掲載されたものです。学校法人日本福祉大学学園広報室が一部加筆・訂正のうえ、掲載しています。このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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